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秋田地方裁判所 昭和59年(ワ)470号 判決

原告

橋本穂

右訴訟代理人弁護士

津谷裕貴

被告

日光商品株式会社

右代表者代表取締役

黒谷喜久栄

被告

芳賀昌志

被告

保科雅義

被告

川崎政美

右四名訴訟代理人弁護士

肥沼太郎

右訴訟復代理人弁護士

三﨑恒夫

主文

一  被告らは、原告に対し、各自三三〇万円及びこれに対する昭和五九年一二月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は三分し、その一を原告、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自五六九万八〇〇〇円及びこれに対する昭和五九年一二月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

別紙「請求の原因」記載のとおり。

二  請求原因に対する認否及び主張

1(一)  請求原因第一、一は認める。同二のうち、原告が大学病院に勤務する者であることは認めるが、その余は不知。

(二)  同第二については、別紙「委託証拠金受払一覧表」のとおりである。

(三)  同第三の不当勧誘、取引方法の違法の主張は争う。

(1) 同一1については、被告会社は市場調査を行ったうえで原告を勧誘したのであり、被告の行為は禁止事項にふれるものではない。同2は否認する。ただし、主張の日に七万円を原告から受領したことは認める。同3は否認する。

(2) 同二1は否認する。同2は否認する。両建は以前から行われているものであり、それ自身は不当なものでも理不尽なものでもない。原告は「必ずしも損が出ないようにできない」と主張するが、これは相場である以上当然のことである。禁止事項では両建を禁止しているが、これはすべての両建を禁止する趣旨ではなく、同時両建及び継続的又は連続的な両建を行うことを禁止したものにすぎない。同3は否認する。向かい玉はもちろんのこと、バイカイ付け出しは取引所の業務規定により認められた正規の取引締結の方法であり、何等不明瞭、不誠実な取引方法ではない。同4ないし7は否認ないし争う。特に、原告は新規委託者保護管理協定の趣旨を誤解しているようである。

(四)  同第四は否認ないし争う。

(五)  同第五は否認する。

2(一)(1) 被告会社は東京穀物商品取引所に所属する商品取引員である。

(2) 被告会社の秋田支店従業員(被告らは商品外務員資格を有していた)であった被告保科は、昭和五八年一二月七日、原告方を訪問し、原告に対し、右取引所に上場される「輸入大豆」の先物取引について説明、勧誘を行った。原告は、年内は忙しいので年明けから取引を始めたいとのことであった。

(3) 被告保科は、昭和五八年末及び昭和五九年頭に、原告に対し、大豆相場の年末、年頭の情報を連絡し説明した。

(4) 昭和五九年一月九日、被告保科が原告の勤務先である病院に電話したところ、原告は「輸入大豆」一枚分の取引に必要な委託証拠金七万円を用意し、取引を始めてみたいとのことであった。そこで、被告保科は、同日、右病院に赴き、原告に対し「輸入大豆」の先物取引について、相場の状況や取引の仕組み、売買取引委託の手順、取引に必要な委託証拠金の種類、性格等や売買取引の単位、差損益の計算方法、委託手数料の額等について説明をした。原告は、被告らが商品先物取引の投機性について説明せず、不当な勧誘を行ったと主張しているが、被告保科は右のとおり、先物取引が投機取引であることはもちろん、右各事項を十分に説明している。

(5) その結果、原告は、本件取引をすることを承諾し、受託契約準則(乙第一号証)、商品取引委託のしおり(乙第四号証)、商品取引ガイド(乙第六号証)の説明交付を受け(乙第二号証、第五号証)、取引承諾書(乙第二号証)、通知書(乙第三号証)、印鑑登録票(乙第七号証)を作成して、被告保科に交付し、かつ委託証拠金預り証(乙第一四号証の一)と引き換えに七万円を預託し、同日後場一節において、「輸入大豆」先物(六月限)一枚(取引単位一枚は大豆二五〇袋)の買注文をし、右注文は約定値段(一袋当たり)四八八〇円で成立した。

(6) また、被告会社においても新規顧客に対して手紙文(乙第八号証)とともに「お願い」と題する文書(乙第九号証)を同封して郵送し、商品取引を行うについての重要な事項につき注意を喚起している。

(二)(1) 原告は、別紙「委託証拠金受払一覧表」番号1の買建玉を行ったのを始めとし、右表のとおり委託証拠金を預託して昭和五九年七月一八日までの間、順次売買取引を行った。

(2) 原告は、右売買注文が成立する都度、被告会社の従業員から報告を受け、かつ被告会社から「委託売付買付報告書及計算書」(乙第一三号証の一ないし五五)の送付を受け、委託証拠金預託の都度、被告会社から預り証(乙第一四号証の一ないし一六)の発行交付を受け、別紙「売買一覧表」中、「損益の清算状況」欄記載のとおり、各売買により発生した差損益及び委託手数料について、順次被告会社との間で清算をし、取引を完了しているのである(乙第一九号証)。

(三) 以上のとおり、本件取引はすべて原告の委託注文に基づき行われたのであって、被告らには原告主張の不法行為はもちろん債務不履行もない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一被告会社が商品取引の受託業務を業とする者であり、被告芳賀が被告会社の秋田支店長、被告保科、同川崎が同支店営業担当社員であったことは当事者間に争いがない。

二そこで、原告が被告会社と商品先物取引をするに至った事情等についてみるに、〈証拠〉によれば、以下の事実が認められる。

原告は工業高校を卒業し、電気関係の会社に勤めた後、昭和五四年から秋田大学病院に電気技術関係担当の職員として働いている者であるが、昭和五八年一二月、被告保科から電話で商品先物取引の勧誘を受け、更に直接自宅や勤務先に訪ねてきた右被告から商品先物取引をすれば短期間に大きな利益を得ることができることや商品先物取引の概略的な説明を受けて、これに興味と関心を抱くようになり、とりあえず近く大幅な値上がりが期待できるという「輪入大豆」を最低取引単位である一枚(二五〇袋)を買ってみようと思うに至った。そして、昭和五九年一月九日午前一〇時ごろ右被告から電話を受けた際に、原告の右希望を伝え、右取引に必要な委託証拠金七万円を用意し、右勤務先を訪れた被告保科にこれを手渡し、「輸入大豆」一枚を、価格を任せる、いわゆる「成り行き」で買ってくれるよう申し入れ、その結果、被告会社を通じて別紙「売買一覧表」番号1に記載のとおり、同日四八八〇円(一袋当たりの価格)で「輸入大豆」一枚が買われた。

ところが、被告保科の思惑に反し「輸入大豆」は値が下がる一方で値上がりする気配も見せないため、同被告は原告にその旨述べたうえ、損を少なくするためには更に買い足しをする必要があると説明し、原告もまさか本訴で請求しているような大損をする結果になろうとは夢にも思わず、乗り掛かった船で今更損をしたまま引き返すこともできないとしてこれを承諾し、別紙「売買一覧表」番号2ないし4記載のとおり、「輸入大豆」の買い増し(ナンピン)を被告会社に委託した。

ただ、原告は従来商品先物取引の経験は全くなく、職業柄からも商品先物取引については全く知識を有してしなかったため、被告保科から商品先物取引について概略的な説明を受けても十分に理解をすることもできず、被告保科が専門家の同被告に任せてくれたら悪いようにはしないといった感じの説明をするのを聞いて、同被告を信頼し、同被告に任せておけば悪い結果にならないであろうと考え、取引を始めた当初から同被告に注文の銘柄・時期や限月等を任せることにしたのである。

さて、前記のように買い増しをしたのであるが、依然値上がりの気配を見せないため、被告保科は買建玉とともにこれに対応する売建玉を保有する、いわゆる「両建」を採用して様子を見た方がよいと原告に説明し、同被告の言うままに動くより仕方のなかった原告は同被告の指示に従うことにし、別紙「売買一覧表」のとおり、昭和五九年一月二七日、番号5の「売」六枚が購入され、同年二月一日これを仕切って一六万五〇〇〇円の利益がでたのであるが、右保科はこれをも委託証拠金に回して取引の枚数を増やし、損を回復したうえ、利益を大きくするように勧め、同日、別紙「売買一覧表」番号6の「買」八枚の購入となったのである。

このようにして、原告の取引量は次第に増えて行ったのであるが、別紙「売買一覧表」を見ても分かるとおり、「輸入大豆」は値上がりどころか、むしろ値下がりの傾向を示し、原告は追加注文等で委託(追)証拠金の支払いばかりを求められていたところ、昭和五九年一月末ごろ、被告保科の上司に当たる被告川崎から電話があり、これからは保科に代わって川崎が原告の取引の指導に当たる旨を告げられるとともに、大きく儲けるためには取引量を増やさなければならないとの指示を受けた。これに対しても、原告は商品先物取引について確たる方針の持ち合わせがあるわけでもなく、ただ被告らに任せ、その言うところに従うより仕方がなく、右川崎にもその趣旨の返事をしたのであるが、その結果、別紙「売買一覧表」のとおり、取引を始めたころと比べると同じ人が取引をしているとは思えない程に原告の取引量は飛躍的に多くなり、これについて原告は少なくとも取引報告書等により事後報告は受けていたのであるが、その詳細な内容については理解の外にあった。

その後、当初の予期に反して損をするばかりで一向に目が出ず、時に利益が出てもそれを委託証拠金に回されて現金を手にすることがないばかりでなく、原告自ら借金までして入れた委託証拠金さえも返ってくるあてもない状態となったため、原告は再三被告会社に電話して被告保科や同川崎に抗議をしようとしたのであるが、右被告らは口実を設けて電話口に出てもくれず困り果てているとき、被告芳賀が更に大きな取引をするように勧めたので、これ以上被告らに付き合うことはできないと考え、未決済中の建玉を全部仕切ることを求めたため、同被告もやむなくこれに応じ、昭和五九年七月一八日別紙「売買一覧表」番号24―4のとおり「買建玉」を仕切り、清算した結果、同月二四日原告に委託証拠金残三万円が返却された。

以上の事実が認められる。

三被告らの責任について

1  被告保科について

右に認定したとおり、被告保科は、当初から原告の本件取引に関与している者であるところ、被告保科の供述によれば、同被告は別紙「売買一覧表」番号8の昭和五九年二月九日の取引辺りまでしか担当しておらず、その後は被告川崎が担当したというのである。ただ、被告保科は、原告が養子の身の上であることや商品先物取引には全く経験のない素人であることを十分に知っており、また原告が金銭的に余裕のある者とは考えていなかったとも供述している。他方、原告は保科の説明を十分には理解することができなかったようであり、商品取引を業とする者がこのような人を取引に勧誘する場合には商品先物取引の特性(大きな儲けも期待できる代わりに、大きな損を被る危険のあることや相場の動向を見通すことは至難の業であること、追証を入れなければならない場合等)を特に念入りに説明すべきであるといわなければならない。

そして、原告は被告保科の熱心かつ上手な勧誘・説得に心を動かされ、危険極まりない相場に手を出すに至ったのであり、保科の言い分を信用し、同被告に下駄を預けた形で取引を始めたにもかかわらず、その後保科の見通しが外れて思うように成果を挙げることができず、代わって保科の上司である被告川崎が乗り出してきたのであるから、原告としては、むしろ被告会社が原告のために損を取り戻してくれると考えたとしても無理はないといえよう。原告の本件取引に当初からかかわってきた被告保科としては、右時点においては、原告が損をしたまま後に引けない立場・心境にあることは分かっていたはずであり、途中から原告の取引に介入してきた被告川崎に対しても原告の右立場や原告を取り巻く事情を十分に説明し、またその後の取引経過にも注意を払い、少なくとも深入りしすぎて傷を大きくしないよう配慮をすべき義務があったというべきである。

ところが、前記認定のとおり、被告川崎が関与するようになってから、原告の取引高は急激に増えているのであり、原告としてはますます引くに引けない立場に追い込まれる結果となった。そして、委託証拠金も次々と預託させられているのであるが、これも、原告が供述するように、もし預託要求に応じないならば今まで被告会社に預託してきた金員がすべて失われてしまうことになるとの被告らの説明にやむなく従わざるをえなかったためであろうと思われる。

被告保科としては、以上に述べた各義務を尽くしていないというべきであって、民法七〇九条により原告が本件取引により被った損害を賠償すべき義務があるといわざるをえない。

2  被告川崎について

被告川崎が原告の無知やその弱味に付け込んで別紙「売買一覧表」記載のとおり原告に大きな相場を張らせ、結局原告に大損をさせたことはすでに認定してきたとおりである。なるほど、原告は被告川崎に対しても任せるとの趣旨の依頼をしたことがあったであろうし、委託証拠金も言われるままに預託してきており、取引の事後には取引報告書・計算書も原告に送付されていたにもかかわらず、これについて異議の申し入れもしていないのであるから、右委託取引が原告の意思に基づくものでなかったとすることはできないが、被告川崎のやり方は余りにも原告の真意や立場を無視したものであり、原告を食い物にしたと言われても弁解の余地がないほどのものであった(少なくとも取引に当たっては、素人の原告にも理解・判断できるように説明し、かつ十分な情報をも提供し、最終決断は原告に任せるようにすべきであった。もちろん、相手によっては、提供された情報等さえも的確に理解・判断する能力を有しないこともあろうが、そのような者にはそもそも商品先物取引をする資格がないのであり、このような者に対し、安易に大儲けができるなどと利で釣って勧誘することは厳に差し控えるべきである。なお、別紙「売買一覧表」や〈証拠〉を見ても分かるとおり、昭和五九年四月以降の取引はその量だけでなく、取引回数も多く、短期日で建玉の手仕舞をするなど手数料稼ぎと非難される可能性も否定できないものがある)。

被告川崎の行為は違法であり、原告が同被告の行為により被った損害を賠償すべき責任があることは明らかであるといわなければならない。

3  被告芳賀について

被告芳賀の供述によれば、被告芳賀は昭和五九年四月に被告会社秋田支店長に着任し、原告とは着任の挨拶で会ったことがあるほかは、取引については、同年五月一九日ごろ原告の委託証拠金の入金遅れの件で原告と電話で応対したこと(この際に、商品先物取引の仕組みや相場の変動に対する対応策等をも原告に教示しているようであるが)と前記認定の同年七月一八日の手仕舞の件で原告とやりとりがあった程度であるというのである。しかし、同被告は被告会社の秋田支店長であり、被告保科や同川崎が行った前記認定の違法行為について監督者としてこれを防ぐ義務があるばかりでなく、前記認定のとおり、同被告は困っている原告に対し、更に取引を大きくするようになどと言って支店長自ら取引の継続・拡大を勧めている有様であるが、これは営業成績を上げるために相手構わず、原告のような者にまで先物取引を勧誘した、当時の被告会社秋田支店の体質がよく表れている出来事ともいえるのであり、いわば被告らは組織ぐるみで右行為を行ったということができ、被告芳賀もその責任者として共に不法行為責任を負担すべきである。

4  被告会社について

被告会社を除く被告らが被告会社の従業員であったことは当事者間に争いがなく、被告会社はその使用者として、民法七一五条により、右被告らと共に原告の被った損害を賠償すべき義務がある。

四被告らが支払うべき損害賠償額について

1  過失相殺について

原告が商品先物取引について経験も知識も有していない者であったことは既に認定したとおりであるが、商品先物取引が投機性の高い、極めて危険な商取引行為であることは常識であり(現に、原告は養子の身の上でもあり、本件取引は家の者に隠れてしたと述べているが、これは商品先物取引が危険なものであり、もし家の者に知れると反対されることを予期していたためであるといえよう)、被告保科や同川崎の甘言に乗せられたとはいえ、利に目がくらみ、外務員の勧誘に従って相場に手を出し、そのうえ取引の報告書等が送付されてきてもそれを理解しようともせず、ただ被告らに任せ切りにして取引を継続し、損失を増大させているのであって、原告に過失のあることは否定できない(もしこれで原告が儲けることができていたとしたら、正に「濡れ手で粟」ということになろう)。そして、前記認定の被告らの行為の態様等とも考え併せると、原告が被告らの行為により受けた損害のうち、被告らに請求することができるのはその六五パーセント程度が相当であるというべきである。

なお、被告らがした行為は、期間、取引量、態様等において関与の程度に差異があるが、いずれも被告会社の組織の一員として行ったものであり、特に損害賠償責任の内容に差をつける必要はないと考える。

2  原告の損害

(一)  原告が被告会社に預託した委託証拠金

〈証拠〉によれば、原告が被告会社に預託した委託証拠金は被告の主張する別紙「委託証拠金受払一覧表」に記載のとおりであると認められ(ただし、原告が自分の懐から出捐したのは四三四万円であり、他は被告らの行為により得られた取引利益金が委託証拠金として回されたもののようである)、原告の主張と日時、金額において多少の食い違いがあるが、少なくとも原告が主張する四六八万円を原告が被告会社に委託証拠金として預託したことについては、被告らもこれを争っていないというべきであり、原告の過失の程度を考えると、右のうち被告らが原告に賠償すべき額は三〇〇万円をもって相当と認める。

(二)  慰藉料

原告が被告らの行為により精神的苦痛を被ったことは推察するに難しくないが、本件取引結果については、原告の落ち度によるところも大いにあるというべきであるばかりでなく、財産上の損失は財産上の請求によりこれを回復するのが原則であり、本件においては、これ以上に特別に慰藉料を認容しなければならない事情も認められないから、慰藉料請求は失当である。

(三)  弁護士費用

原告訴訟代理人が原告から本訴提起、遂行の委任を受けたことは本件記録により明らかであり、被告の抗争の程度、内容、立証の困難性、事案の内容、認容額等を考慮し、本件事故による損害として原告が被告に請求しうる弁護士費用は三〇万円をもって相当と認める。

(四)  被告らが支払うべき賠償額

被告らは共同不法行為者として、原告に対し、各自三三〇万円及びこれに対する本件不法行為の後の日である昭和五九年一二月二七日(本件訴状送達の翌日)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

五結論

よって、原告の本訴請求は前記認定の限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官福富昌昭)

別紙請求の原因

第一 当事者

一 被告日光商品株式会社(以下「被告会社」という)は、国内の商品取引の受託業務を業とする会社であり、被告芳賀は秋田支店の支店長、同保科、同川崎は同支店の営業担当の従業員である。

二 原告は大学病院に勤務し、先物取引はもちろんのこと、株式等投機性のある取引の経験は全くなかったものである。

第二 原告の金銭預託

原告は被告会社に対して次のとおり金銭を預託した。

1 昭和五九年一月九日 七万円

2   同年同月二〇日 七万円

3   同年同月二四日 二一万円

4   同年同月三〇日 四二万円

5   同年二月 八日 三五万円

6   同年同月一〇日 二四万円

7   同年同月二〇日 二八万円

8   同年三月上旬ころ 六万円

9   同年五月三〇日 二九八万円

合計 四六八万円

第三 被告らの責任

一 不当勧誘(詐欺的勧誘)

被告らは、前記のとおり、原告から証拠金、あるいは追加証拠金として合計四六八万円の預託を受け、その結果同額の損害を与えたものであるが、被告らの行為は会社ぐるみで原告から証拠金名下に金員を詐取したものである。すなわち、

1 無差別電話勧誘の禁止

被告保科は、昭和五八年一二月下旬ころ、原告に対し、自宅や勤務先に数回電話をし、執拗に先物取引の勧誘をした。これは、面識もない原告に対し無差別に電話による勧誘をしたものであり、取引所で禁止されているものである(取引所指示禁止事項1違反。以下「禁止事項」という)。特に、先物取引の経験もなく、その知識能力もなく、損失により生活基盤さえ脅かされるような乏しい資力しか有しない者はそもそも先物取引の不適格者であって勧誘をすべきでないのである。

2 断定的判断の提供、利益保証の禁止

被告保科は、昭和五九年一月上旬、原告方において、原告に対し「先物取引は一番効率のよい金儲けの手段であり、今年は久方ぶりの大相場で六〇〇〇円台まで上がることは確実です。今買っておくと絶対儲かります。また、私は本荘出身なので地元の人間ですから悪いことはできません。どうか取引をしてください」等と言って、先物取引の危険性を一切説明することなく、安全確実な利殖の手段であるかのように嘘を言って勧誘して、原告を誤信させ、昭和五九年一月九日、委託証拠金名下に原告から七万円を詐取した(商品取引所法九四条一、二号、受託準則一七条一、二号、禁止事項1、2違反。なお、右商品取引所法及び受託準則を以下「法」「準則」という)。

3 危険性の告知違反等

先物取引を受託しようとする場合は、僅かな保証金で実際はその数倍の取引を行っていること、またその取引の仕組み等の説明を行うことは不可欠である。

更に、先物取引が投機であって、利益が保証されないのみか、元金の保証もなく、また損失が出た場合には追加保証金も必要になり、危険な取引であることなどを説明することはそれ以上に重要である。ところが、被告保科は原告に勧誘するに当たってこれらを説明・告知しなかった(禁止事項4違反)。

二 取引方法の違法性

1 無断売買(法九四条四号、準則一八条二号、禁止事項4違反)

原告の建玉は、すべて原告の事前の指示に基づくものではなく、被告保科、同川崎、同芳賀の判断によるものであり、原告には事後報告等がなされたのみであって、原告はこれに対し対応の仕方が分からず、言われるままに応じていたにすぎない。

2 両建の勧め(禁止事項10違反)

被告川崎らは原告に対し、昭和五九年一月二七日のほか数回にわたり、原告の建玉に損失が出たので両建をすれば損が固定して安全だなどと言って両建を勧め、原告の損害を拡大させた。

建玉に追証がかかりそうになると、業者は必ずといっていいほど両建を勧める。しかし、取引所ではこれは禁止されていることである。それは、一時的には損は固定されるが、委託者にとりその後の仕切りが難しく、必ずしも損が出ないようにできるというものではなく、結局、新たに建玉をした分だけ手数料を取られるにすぎないからである。

被告会社は、原告に対して利益が出ても現金を交付せず、それを証拠金に組み込み、更に大きな取引に誘い込み損勘定になるまでこれを続けた。

三 被告らのこれらの行為は、先物取引業者及びその外務員としての注意義務に違反するばかりでなく、その個々の行為において違法性が高く、また一連の行為が全体としても不法行為を構成するというべきであり、被告らは債務不履行ないし不法行為(被告会社は民法七一五条、その余の被告らは民法七〇九条)責任により、原告が被告らの行為により被った損害を賠償すべき義務がある。なお、本件のような事案において過失相殺をするのは事案の本質に照らし不当である。

第四 損害

一 預託金 計四六八万円

二 慰藉料 五〇万円

三 弁護士費用 五一万八〇〇〇円

以上合計 五六九万八〇〇〇円

第五 まとめ

よって、原告は、被告らに対して、民法七〇九条、七一五条、四一五条に基づき五六九万八〇〇〇円の損害賠償金及びこれに対する不法行為等の日以降である訴状送達の日の翌日(昭和五九年一二月二七日)から支払いずみまで年五分の割合による損害金の支払いを求める。

別紙売買一覧表〈省略〉

別紙委託証拠金受払一覧表〈省略〉

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